フィールドワークの意味は、現場を歩くことで本を始めとするメディアに掲載されている情報以外の、新しい仮説やビジネスで本当に大事なポイントを掴むことだと言われている。しかし、その前に、僕は現場が与えてくれる情報から本質を見極めるトレーニングであり、換言すれば「アフォーダンス」の感度を上げることにあると考えている。
ビジネス市場は日々進化していて、1日たりとも同じ状況はない。インターネットのニュースも新聞の記事も数週間経つと古臭くなる。まして書籍など1年以上前のファクトに基づいて書かれているものは、「今」の状況からかけ離れていると言わざるをえない。現場で得る情報こそ、メディアにはない、自分だけにもたらされる「未来の予兆」だ。その予兆を感じ取るセンサーを磨きあげるためにはアフォーダンスと呼ばれる「対象物から受け取る情報の質」を高めるトレーニングが不可避だ。川喜田二郎氏がいう「書斎の科学」ではアフォーダンスを磨くことは難しい。外に出て、売り場を歩いて、プレイヤーと話をする中で見えて来るリアリティを包含した「兆し」(これが未来を作る兆しだ)をゲットするために、僕らは日々歩かなければならない。
この兆しを「ヴィジョン」と呼ぼう。まだこの世の中に存在しないけれども、リアリティを持って「ビジネスの姿」が見えた時、僕らは躊躇なく動き出さなければならない。
ヴィジョンに基づいて、行うべきは書斎の科学から生まれた統計学的検証を兼ねた「調査」である。P.コトラーはマーケティング・プロセスの第1プロセスとして調査を上げているけれども、ヴィジョンなき調査は単なる市場動向の傾向を把握するだけのむなしい作業になるだろう。