サイトへ戻る

改めてp.f.ドラッカーを読む

今こそ経営者は「マネジメント」を読みなおそう

 先週末、日経ビジネススクールのテキストを一新するためにP.F.ドラッカーの『マネジメント|課題・責任・実践(上・中・下巻)』を改めて読んだ。そこで思ったのは、ほとんどの経営者はドラッカーを読んでいない、ということだった。むしろ、ドラッカーが言っている真逆のことをやっているようにしか見えない。そこで、僕が感動した文章をあげながら、考えたことを添えて、経営学のメモとして記録しておこうと思う。

broken image

1:マネジメントは権力を持たない

 まず、”マネジメント”という言葉の本質をとらえた次の言葉から。

権限と権力は異なる。マネジメントはもともと権力をもたない。責任はもつ。その責任を果たすために権限を必要とし、現実に権限をもつ。それ以上の何ものももたない。

(p337/上巻)

 会社組織はピラミッド構造になっているから、その権限と権力がセットになっていると考えている人が多い。むしろ、権限に対する意識は薄く、権力に固執している管理職の方が多いようにも思える。しかし、ドラッカーはマネジメントに「権力はない」と言い切っている。むしろ、マネジメントの責任を追行するために「権限」に目を向けている点に注目したい

2:利益とは目的ではなく結果

 次に利益の考え方にも注目したい。これも目から鱗だ。

そもそも利益とは目的ではなく結果である。マーケティング、イノベーション、生産性向上の結果、手にするものである。(p87/上巻)

 いつから企業は利益を「目的」にビジネスを考えるようになったのだろうか。利益とは、ビジネスに対し最善を尽くした結果、もたらされるものであって、それを目的化することは害でしかない、とドラッカーは言う。この考え方は今の経営に全く浸透していないように思える。果たして、企業の利益病を蔓延させたのは誰なのだろうか。

 では、企業の目的とは何か?その点についてドラッカーは次のように指摘している。

企業は、働く者に仕事を与え、株主に配当を与えるために存在するのではない。消費者に対し財とサービスを提供するために存在する。病院は、医師や看護師のために存在するのではない。早く退院して、再び入院することのないことを願う患者のために存在する。学校は、先生のためではなく生徒のための存在する。これらのことを忘れたマネジメントはマネジメントではない。(p46/上巻)

3:企業のミッションは"社会変革"

 ドラッカーの企業の目的は、顧客のために何をなすのかを具体的に決めることである。では、目標とは何か。ここは存在意義と考えると分かりやすい。企業のミッション=to be (在り方)であり、企業のゴール=to do(なすこと)と整理しておこう。

 ドラッカーは企業のミッションとは、社会革命である、と言っている。この事例をわかりやすく、マーク&スペンサーの事例で説明しているので記しておく。

彼らは、自分たちの事業の目的とミッションを検討し直した。自分たちは単なる小売業ではなく、社会革命の担い手であるとした。同社は、自分たちのミッションは勤労者階級に対し、上流階級の品物を上流階級のそれよりも優れた品質と、彼らにも手が出せる価格で提供することによって、イギリスの社会階級を打破することであるとした。(p123-124上巻)

 そして、こうも言っている。

目標は絶対のものではない。方向づけである。命令されるものでもない。自ら設定するものである。未来を定めるためのものでもない。未来をつくるために、資源とエネルギーを動員するためのものである。(p133/上巻)

4:知りながら害をなすな

 さらに強烈だったのが、古代ギリシアの哲学者ヒポクラテスの「知りながら害をなすな」という言葉を経営者に突きつけ、以下の3点で説明不足からくる誤解を生んでいると指摘している。

①経営者の超高額報酬

(実際の所得格差を説明せずにいると、一般社会は格差が増大しつつあるとの印象を持つ。これは危険な錯覚である)

②足枷としての諸手当

(付加給付が働く者を組織に縛る働きをしている。それらは、同じ組織のもとにとどまり続けることを条件に与らえるが、その足枷は真に企業を強くしない。専門性の高い能力を持つものには通用しないし、成果をあげないものが職場にとどまることになる)

③利益についての説明

(マネジメントは、企業の目的は利益の極大化にあると説明するが、その利益の客観的な機能について説明しない。)

 正しい意味での説明責任を果たさないでいると、周囲は不信感を募らせる。この辺り、実は当たり前のようでできていないことの方が多いように思える。企業経営者は様々な説明を従業員に真摯に伝えるべきである。

5:フィードバックによる行動修正

 最後に「フィードバック」について。これは案外できているようでできていない。ドラッカーは次のように言う。

働くものに責任をもたせるための第二の条件は、成果についての情報をフィードバックすることである。責任をもつためには自己管理が可能でなければならない。そのためには、自らの成果についての情報が不可欠である。(p318/上巻)

 自らのチーム、自らの仕事が一仕事終えた時点で、仕事を解剖・分解して、行動修正を行うこと。これが習慣化できていないと組織として進歩しない。企業に勤める人は、学びに関しては個々人で行うものだと勘違いしている人が多い。しかし、本当に強い組織になるには、マネジメントが積極的にフィードバックをし、行動修正をしていくことが求められるだろう。